Saturday, July 30, 2011

「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」の行く末は……? (再掲)

先日、ある教材を見ていたら、ひらがなの書き取り練習のところに、

「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」

を練習する欄がありました。

しばらく眺めていて、思ったのです。

「現代日本語に、ぢゃ・ぢゅ・ぢょを使ったことばなんてあったっけ?」


基本的に、現代日本語の所謂「標準語」では、「じ」と「ぢ」の発音の区別はありません。
昔は区別があったのですが、そして区別があったからこそ異なる文字を当てたわけですが、江戸時代の頃から徐々に失われていったようです。

一応ネイティブの私でも、表記に「ぢ」を用いる単語でさえ多くは思い浮かびませんから、もしかしたら「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」の表記はもうすでに消えてしまっているのでは?と思い、少し考えたり調べたりしてみることにしました。

しばし思考を巡らせてみましたが、私の頭の中にある辞書には「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」が入ったことばは載っていないようでした。

そこで今度は手持ちの辞書を使って調べてみました。
手抜きをして、電子辞書で一括検索をしたのですが、

「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」で始まる単語は0件。

時間がなくて調べきれなかったのですが、

どうやら「ぢゅ」を含む単語は現代日本語には存在しないようです。
(私は国語学者・日本語学者ではありませんので、どなたか訂正してくださる方がいらっしゃったらお願いいたします。)

「ぢゃ」「ぢょ」が入っている単語をよく見てみると、

「ぢゃ」では、
「茶(ちゃ)」「茶碗(ちゃわん)」ということばが含まれた複合語が多いことがわかりました。
(例:「湯呑み茶碗(ゆのみぢゃわん)」「葉茶屋(はぢゃや)」など)

「ぢょ」では、
「調子(ちょうし)」「提灯(ちょうちん)」を含む複合語が出てきます。
(例:「一本調子(いっぽんぢょうし)」「鬼灯提灯(ほおずきぢょうちん)」など)

また、これらのことばのほとんどは『広辞苑』での掲載に留まり、私の電子辞書に入っている国語辞典『明鏡国語辞典』には掲載されていないものばかりでした。
つまり、「ぢゃ」「ぢょ」が出てくる環境はかなり限られている、と言えます。

さらに、この文章はパソコンから打ち込んでおり、キーボードには「グーグル日本語入力」を使っていますが、「一本調子」や「湯飲み茶碗」などは「ぢゃ」の代わりに「じゃ」を打っても変換されます。
(ちなみに、このパソコンにもともとインストールされていたキーボードでは「ぢゃ」「ぢょ」でなければ出てきませんでした)

「グーグル日本語入力」は、携帯電話のメール機能にあるような予測変換機能があります。この機能は、やはり携帯電話の機能と同じように、ユーザーが最も使用するであろうことばから順番に変換候補が出され、その変換候補はユーザーの実際の使用頻度に基づいていると考えられます(確かそのような表記をどこかで見ましたが、確かではありません)。

そうすると、例えば「いっぽんじょうし」と打って「一本調子」が候補に出てくるということは、ユーザーが「一本調子」のかな表記は「いっぽんじょうし」であると認識していることを反映していると考えることができます。
音が同じなので、無理はありませんね。

私も、「湯飲み茶碗」は音だけで覚えていて([junomidyawaN], /dy/は本当は/dy/ではないのだけれどIPAが打てないので代替です)、意識して文字を打とうと思わないと、「ぢゃ」という文字は出てきません。


今回調べてみて、文字としての「ぢゃ」と「ぢょ」はまだ残っている、ということが確認できました。

しかし、「じ」と「ぢ」の音の違いは一部の方言を除いてもうほとんど消えてしまっている点、「ぢゃ」と「ぢょ」は限られた環境にしか現れない(そして「ぢゅ」に至っては全く見受けられない)点、さらにはグーグル日本語入力の予測変換の例を見ると、近い将来、ひょっとすると「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」は完全消滅……ということもあり得るのではないでしょうか。

ただ、「を」が「お」と同じ発音になってしまっても(私は北信の出身で、「を」=「お」というのにはどうしても賛成できないのですが)慣習上の表記として残っていることを考えると、「ぢゃ」「ぢょ」はこの先もずっと残るのかも知れません。


また、辞書等には載ることはないかと思いますが、

「○○ぢゃないよ」(=○○じゃないよ)や、
「ぢょし」(=じょし=女子)、「ぢょうちゃん」(=じょうちゃん=嬢ちゃん)

など、昔は「ぢ」の音だった(ゆえに歴史的仮名遣いでは「ぢ」)が現在では「じ」に変換されているものが再び(インフォーマルに)「ぢ」で表記されている例が、若者の通信でのやりとりやインターネット上で多く見られます。

個人的には、もっとずっと若かった頃、友だちとの手紙(あの頃はまだまだ手紙が女子の間の通信手段でした)のやりとりで「みぢかい」(=みじかい、これは歴史的仮名遣いでも「じ」)を使っていたりしたので一概には言えないと思いますが、何らかの”揺り戻し”が起こりつつあるのかもしれません。そうすると、また新たな形で「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」が残っていく可能性もあります。


時代とともに絶えず変化しつづける、言語。
寝る間も惜しんで、いつまでも追求したくなります。
、と言っても、これからぐっすりがっつり眠りますが。


さよ

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